ドウナッツ
私は、ドウナッツを乞う時、実にイヤらしいニヤニヤした顔をします。
それは、いい歳こいてドウナッツを欲しがる様子をが気恥ずかしがっているのではなく、
単に私が育ちが悪いせいで、あんなにイヤらしいニヤニヤ顔をしてしまうのです。
幼き頃の私は、ドウナッツ1つ貰うのに、必死の努力を尽くさねばなりませんでした。
母はいつも3時の頃になると、コタツの上に大きなおしりを下ろし、下品に足を組み、
皿に盛ったドウナッツを、イヤらしく親指と中指でつまみ、
顎を斜うえに上げた口に勿体ぶったように運びます。
そのイヤらしい食べ方に、図工の教科書で見た腹の弛んだ裸婦の銅像ような、
イヤに艶かしい肉質的な生々しさを感じ、
彼女が口にするドウナッツにすら、艶かしい魅力を感じたのです。
「ドウナッツおくれ、おくれ」私は恥ずかしそうに言います。
「○○寺まで走って帰ってきたら、あげよう。」
○○寺とは毎年秋祭りでお神輿の集まる、家から2キロもあるお寺です。
なぜそんな所まで無駄に走らなければならないのか。
「うん」と言って幼い私は家から飛び出します。
私は幼い頃、このように無意味な労働によりドウナッツを口にしてきました。
帰ってきたらもうドウナッツが無かった事だってあります。
風呂の掃除をさせられて、もうドウナッツが無かった事だってあります。
大きな石を右から左へ、左から右へ何往復も運ばされた事だって・・・。
私は、今でもドウナッツを乞う時ニヤニヤとイヤらしい顔をします。
大人の私のニヤニヤは、きっとマゾヒストのイヤらしい物乞う顔だ。