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ピアノ

未来の人が、この時代を語る時、
未来の人は、この時代の事を何と罵るのでしょうか。
この時代に文化の発展はありません。資本主義的な文明機器の開発ばかりで、
CPUのスピードは年々上がるばかり。液晶テレビは大きくなるばかり。とってもつまらない事です。
未来の人は、この時代を何と呼ぶのでしょう・・・。

そんな事ばかり考えていたら、胃潰瘍になりました。
しばらく実家で療養しておりました。お久しぶりです。


実家には、大きなピアノがあります。
音楽室の先生が弾くようなクソ大きなものではなく、黒塗りのタンスのような形で、
土壁に背中合わせで置かれ、掛け軸の掛かった和室の居間に不自然に佇んでいます。

あの当時の母というものは、どうして、クラスの音楽会で、
ピアノ弾き係に任命される女子に、我が娘をそうしたいと願うものなのでしょう。

もう10年以上も前に、母が妹のために相当無理をして買った真っ黒なピアノ。
ピアノなどより、“リボン”や“マーガレット”に夢中の不良な妹には、ピアノの教室は長く続かず、
結局、すぐに置物になってしまいました。
ピアノには夏物は収納できません。口は悪いですが、まったくの木偶の坊です。

先日、めずらしく遠出をした時、旅先で真っ白なリコーダーを購入しました。
YAMAHA製なのですが、艶やかな乳白色が、まるで陶器みたいにお上品で頼もしく、
その美しさに思わず惚れて購入しました。
早速、近所の公園で吹いてみたのですが、上手く風のように澄ん流れる音が出ず、
結局、通りすらりのカップルに会釈され、虚しくなったのでやめました。

薄暗い明かりしか入らない和室に、花柄の模様が入った汚い布を被せられ、
もう家族にも目の端でしか見られなくなったピアノを、
私は思わず弾いてみたいと思いました。

汚くなった厚手の布を、ホコリが飛ばないようにそっと右に寄せ、
ゆっくり黒い重たい蓋を持ち上げひらいたピアノ。
中からは、とても白くて綺麗な鍵盤が歯を並べます。

公園で乳白色のリコーダーを弾いた時、
どの穴が“ド”で、どう押さえてゆけば“シ”までたどり着くのか分かりませんでした。

目の前に並ぶ、綺麗な白い鍵盤の歯達。どれが“ド”なのかしら。
この中に、“ド”が2・3個隠されている事は知っています。
黒い鍵盤はハズレの印。目印のシールは貼ってありません。
私は、勘には自信があります。
だってあの日、偶然にも私は鮎次郎と再会し、幸せになったのですもの。
私は思い切って、ちょうど真ん中の位置にある鍵盤に指を置きます。
恐る恐る、指に力を入れると、ギシッと歯が沈んだ後、トンと高くて重い、
部屋の空気全てに響くような音が鳴りました。
コレは“ミ”かしら、“ラ”かしら、私にはそれが何音かもわかりません。

試しにもう一度3つ隣の歯に指をかけギシッと押し込もうとした時、
ガラッと部屋の扉が開きました。
「何しとん?」母が全く理解できないような不思議そうな目でこちらを見つめていました。

私は、母につまらない事をしている所を見られたのがとっても恥ずかしくなり、
そのまま真っ黒なピアノの扉を閉じる事しかできませんでした。

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