小指
「オニヤンマ(セイカ)」
応接間に続く天井の低い廊下をミシミシと、
1歩足を踏み出すたびに鳴る床を踏み、
歩く私の右手からコツンコツンと窓が鳴ります。
おや、と思い音のする方へ寄ると、
開けっ放しの窓から入ったオニヤンマがレースのカーテンに引っかかり、
目玉だらけの小さな頭をコンコンとガラスにぶつけ、もがいているのです。
思わぬ大物を手にしたラッキーボーイは、
丁寧にオニヤンマのイガイガの足をレースのカーテンから外してやり、
空のコーヒー瓶のふたを緩く絞め、
その中で縦になってカサカサいっているオニヤンマを、
頬杖付いてしばらく観察した後、そのまま外へ逃がしてやりました。
「ヤモリ(トカイ)」
日が落ちて何時間もたち、
人通りもすっかり少なくなった歩道の脇、
蚊の殲滅を呼びかける自治体のボスターが貼られた連絡版立つ、
黄色く薄汚れて入るものの、貫禄のある白く大きく長い学校の壁の中腹に、
ヤモリがピタリ。
懐かしがるわけでもなく、憎いわけでもなく、
私は足下にあった小さな小石を拾い上げ、
コツンとヤモリの脇の壁に軽くぶつけてやり、
ヤモリを逃がしてやりました。
「蚊(ヒトリグラシ)」
左手小指の第一関節の辺が、
赤く腫れ、膨れた皮膚はカチカチに固くなって、痒い。
カチカチに赤くなった第一関節を、
ぶっきらぼうにしっちゃかめっちゃかベットに擦り付けますが、
痒みは収まらず、
固い皮膚に爪をグッと何度ペケポンしても、
内から沸き上がるウズウズした痒みは、
小指に熱を帯び始め、ますます収まる気配がありません。
蚊。
カチカチの小指の小さな腫れは、
水たまりののように柔らかく変わり、広がれるだけ広がってゆきます。
ベットに擦りすぎて、赤く腫れた小指に広がってゆく青白い水たまりを、
私は右拳でぎゅっと握りしめ、
たった1匹の蚊に占領された我が部屋をトボトボ出てゆき、
蚊取り線香を求めてコンビニにゆくのでした。