人参
「ベランダ」
布団を剥がすと、肩の辺りがカンと冷え、
脆い朝日が漏れる方へヨチヨチ歩み寄ると、
ベランダにヨボヨボになった人参が3本落ちていました。
私は、その場に泣き崩れました。
「オオバコ」
すっかり寒くなりました。
あぜ道から見えるお墓群もすっかり澄んで景色と淡く同色化し、
ひんやりと冷やっこくなった無機質色の墓石が、
どこの影かわかりもしない影に隠れてしまいます。
つるつるした墓石は、やっぱり冷やっこいのかしら。
茶色くなったオオバコの束だけが、
冷やっこい墓石の私が手を乗せた、その脇に小さく積んでありました。
「苗」
春だから、私は苗とプランターを買って家に帰ってきました。
家庭菜園をしようと人参の苗を買って帰ってきたのです。
人参の、ひょろんとした茎はずいぶんかわいい。
尖ってても、肌に当たると、くねんと曲がって、痛くないんですもの。
「冷たい窓」
淡く澄んだ空気とは正反対に、窓ガラスは白く曇ります。
キンと冷えた空気で、すっかり脆くなったガラスに、
重くなった頭を寄りかけ、ホッペをそっと吸着させます。
急激な人肌のぬくもりで、バリンと割れた冷たいガラスが、
バラバラと足下に落ちてゆきます。
足の小指から流れる血は、割れたガラスのせいかしら。
猫にかじられた。
「人参」
カラスすらほじくり返すだけで口にもせず、
子のように丹誠込めて育てた人参すらも、
私はヨボヨボに萎んだものしか作る事が出来ず、
涙目をこすった手さえも、
皮膚が乾燥し白くカチカチになって逆立ち、
むくんで腫れ上がった目の隈をジョリンと削って、
痛い。涙が止まりません。
朝から頭が重い。
窓ガラスの冷やっこさで、
左の耳たぶまですっかり冷えきった頭を離すと、
昨日揃えたはずの前髪も、すっかり乱れて、
白い窓の真ん中に残っていました。